「又は」と「若しくは」の違いは?優先順位と契約書の表記ルール解説
目次
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:「又は」と「若しくは」は選択肢のグループ分け(階層)で使い分け、大きな選択に「又は」、小さな選択に「若しくは」を用いる。
- 要点2:同格の単純な並列選択であれば「又は」のみを使い、単一の文脈で「若しくは」を単独で使うことは原則としてない。
- 要点3:併合的接続詞の「及び」「並びに」とは優先順位の階層が真逆になるため、契約書や規約の起草では厳密な構造把握が必須である。
【結論】「又は」と「若しくは」どっちが先?優先順位の真相
契約書や公用文で頻出する「又は」と「若しくは」の違いにおいて、最も基本となる原則は「どちらが大きなグループの選択を担っているか」という階層関係です。 日常業務で「どちらを先に書くべきか」と迷った際の鉄則は、構造の主従関係にあります。結論から言えば、最も大きな区切りに「又は」を使い、その中にある一段小さな区切りに「若しくは」を使います。単一の選択(同格の選択肢)は「又は」しか使わない
選択肢が2つ、あるいは3つ以上であっても、それらが同じグループ(同等のレベル)に属している場合、登場する接続詞は「又は」のみです。 * 2つの選択肢:「東京事務所 又は 大阪支社」 * 3つ以上の選択肢:「東京事務所、名古屋営業所 又は 大阪支社」 このように、選択のレベルが1階層だけの場合は「若しくは」の出番はありません。実務のドラフトで「A若しくはB」とだけ書かれている文書を見かけることがありますが、これは法制執務上の原則から外れた誤用です。階層が分かれる場合に初めて「若しくは」が登場する
選択肢の間に「グループ分け(階層)」が生じる場合に、初めて「若しくは」を組み合わせて使用します。 例えば、「(Aグループの2択)と(Bグループの1つ)」を全体として選択する場合を考えます。この場合、大分類を結ぶ接続詞として「又は」を配置し、グループ内の小分類に「若しくは」を割り当てます。 * 構造:〔(A 若しくは B) 又は C〕 * 実際の表記:「書面による通知 若しくは 電磁的記録の送信 又は 口頭による申述」 この表記によって、読み手は「書面か電磁的記録のいずれか(文書系手段)」と「口頭」という2大分類の中から選択するのだと直感的に理解できます。もしここですべて「又は」にしてしまうと、どの条件とどの条件が密接に関連しているのかが法的に判別不能になります。
法令用語の階層構造と経緯|なぜ二つの選択的接続詞が必要なのか
なぜ日本語の法令や公用文は、これほどまでに「又は」と「若しくは」の役割を厳密に区別してきたのでしょうか。その背景には、明治期の近代法整備から内閣法制局が築き上げてきた、日本語の構造的曖昧さを排除するための法制執務ロジックがあります。選択的接続詞の法的効力と多義性の排除
プログラミング言語における論理演算子(OR)は、括弧「( )」を用いることで優先順位を明確に指示できます。しかし、自然言語である日本語の条文化において、条文中に無数の丸括弧を入れ子状に配置することは、可読性を著しく損なう原因となります。 そこで日本の法制執務では、「単語そのものに階層の上下関係を持たせる」という知恵が生み出されました。これが法令用語の階層構造の原点です。 裁判実務においても、選択的接続詞がどちらの語句を修飾・接続しているかは、契約当事者の義務や権利の及ぶ範囲を画定する決定的な証拠となります。仮に「若しくは」の配置を誤れば、解除権の発生要件が意図しない範囲にまで拡大したり、損害賠償の免責要件が狭まったりする事態を招きます。3段階以上の複雑な階層が発生した場合のルール
実務で稀に直面するのが、選択肢が3階層以上に分岐するケースです。この場合、法令用語のルールでは「最大の選択のみに『又は』を1回だけ使い、それ以下の下位階層はすべて『若しくは』を重ねて処理する」という明確な取り決めがあります。 * 階層の配置:大分類=「又は」 / 中分類・小分類=すべて「若しくは」 最も外側の巨大な分岐点に「又は」を構え、その内側に生じる枝分かれには何重であっても「若しくは」を割り当てていく構造です。これにより、どれほど複雑な条件分岐であっても、文書全体で「どこが最大の境界線か」が一目で判別できるよう設計されています。【実例比較表】一目でわかる!「及び・並びに」との決定的な構造逆転
法令用語を学ぶ実務家が最も混乱しやすい落とし穴が、並列(AND)を表す「及び」「並びに」との関係性です。実は、「AND」と「OR」では階層の使い分けが完全に真逆になります。 以下の比較表で、その構造的相違を確認してください。| 項目 | 選択的接続詞(OR) | 併合的接続詞(AND) | 実務起草時の注意点 |
|---|---|---|---|
| 単一階層での使用 | 「又は」のみ使用 | 「及び」のみ使用 | 下位語(若しくは/並びに)の単独使用は不可 |
| 2階層:大グループ | 又は(大きい選択) | 並びに(大きい結合) | ORとANDで主従の語句が完全に逆転する |
| 2階層:小グループ | 若しくは(小さい選択) | 及び(小さい結合) | 「及び」は最小単位の連結に限定される |
| 多重階層(3階層以上) | 最大のみ「又は」 それ以下は全て「若しくは」 | 最小のみ「及び」 それ以上は全て「並びに」 | 条文読解時の構造分解で最大の誤読ポイント |

契約書・規約約款における使い分けと例文詳細まとめ
実際の企業間契約書や利用規約・約款の作成において、この原則をどのように反映させるべきか、具体的な条文例を用いて検証します。例文1:役員選任に関する条項(基本パターン)
【例文】* 階層の解説: この条文では、まず「役員(取締役か監査役)」という社内機関の小グループがあり、それと対比される形で「これらに準ずる主要な使用人」という別枠の大分類が存在します。 「取締役若しくは監査役」で小さな選択を形成し、その全体と主要使用人を「又は」で大きく接続しています。
「取締役若しくは監査役又はこれらに準ずる主要な使用人が退任したとき」
例文2:契約解除および損害賠償条項(複合パターン)
【例文】* 階層の解説: 解除事由として、前半の「条項違反グループ(5条違反か6条違反)」と、後半の「主観的帰責事由グループ(故意か重過失)」という2大要件が設定されています。 それぞれの要件内部の選択を「若しくは」で結び、2大要件同士を「又は」でつなぐことで、どちらか一方の大要件を満たせば解除権が発生するという契約意志が明確になります。
「甲が第5条若しくは第6条の義務に違反したとき、又は故意若しくは重過失により乙に損害を与えたとき」
例文3:誤った記載による解釈トラブルの典型例
【不適切な例文】この記述は致命的な構成ミスです。通知手段である「書面」と「電磁的方法」という小レベルの選択に「又は」を使ってしまい、その後に解除という全く異なる法的行為を「若しくは」でつないでいます。これでは「通知すること」と「解除すること」のどちらが主契約上の選択肢なのかが文理上破綻し、紛争時の裁判管轄で不利な解釈を引き寄せる要因になります。
❌「甲は、書面又は電磁的方法により通知し、若しくは本契約を解除することができる」
公用文作成の考え方2026年最新|文化庁の指針と行政実務の現場
長年にわたり維持されてきたこの厳格な法制執務ルールですが、現代の行政情報発信においては新しい潮流が定着しつつあります。文化庁が取りまとめた公用文作成の指針(「公用文作成の考え方」)に基づく、2026年現在の運用動向を押さえておく必要があります。「解説・広報文」と「規程文」の完全な棲み分け
2022年の文化審議会答申以降、行政文書は「国民への分かりやすさ」を最優先する方向へ舵を切りました。2026年現在、官公庁のウェブサイトや広報パンフレットなどの解説文においては、以下のような平易化が徹底されています。 * 広報文・通知文:階層を問わず平仮名の「または」を使用するか、箇条書きを活用して接続詞自体を極力使わない構造にする。 * 規程文(条例・規則・要綱):従来の「又は」「若しくは」の厳格な階層ルールを完全に維持する。 つまり、文書の目的によって使い分けの基準が二極化しています。市民向けの案内窓口で「若しくは」を多用することは「お役所言葉で難解」と批判される対象になりますが、自治体の条例案や法的拘束力を持つ規約の条文でルールを崩すことは許されません。行政書士試験や法務実務における必須知識としての地位
行政書士試験や司法予備試験などの法令用語科目において、「又は」と「若しくは」の優先順位に関する出題は、受験生の実力を測る基本問題として依然として頻出しています。 試験対策のみならず、実務に出て行政機関へ許認可申請書や定款を提出する際、添付書類の規定や事業目的に不適切な接続詞が使われていると、補正指示の対象となる実例が後を絶ちません。法令用語の基礎体力は、現在も実務家の信頼性を測るリトマス試験紙として機能しています。
【実態検証】法務担当者の生の声と一般に知られていない盲点
大手企業法務部や法律事務所の現場では、この接続詞問題についてどのような議論が交わされているのでしょうか。現場へのヒアリングや法務コミュニティの検証から見えてきた、実務のリアルな課題を浮き彫りにします。「AI契約書レビュー」が引き起こす新たな誤謬
契約審査業務に生成AIやリーガルテックツールを導入する企業が急増しています。しかし、法務担当者からは「AIツールが文脈の階層構造を正しく把握できず、誤った修正提案を出してくる」という声が多数報告されています。 一般的な自然言語処理モデルは、「又は」と「若しくは」を単なるシノニム(同義語)として学習しているケースがあり、大きな階層に「若しくは」を当てはめるような不適切な置換を提案することがあります。ツールの判定を鵜呑みにせず、最終的に人間が法制執務の文脈階層を目視で検証するスキルの重要性が、むしろ再評価されています。「どちらでも意味は通じる」という現場の慢心が招くリスク
「日常の取引基本契約書であれば、多少接続詞が崩れていても文脈で意図は伝わる」と考えるビジネスパーソンは少なくありません。しかし、平穏な取引が続いている間は問題化しなくとも、いざ契約解除や巨額の損害賠償を巡って法廷闘争へ突入した際、相手方の弁護士は条文の接続詞の不整合を突いてきます。 「この条項の『若しくは』は直前の名詞のみに係っており、当社が負うべき義務の範囲には含まれない」といった文理解釈の主張が裁判官に認められた場合、起草時の油断が数千万円単位の損失を生む危険性があります。【プロの結論】厳格に使い分けるべき文書と平易化すべき文書の判断基準
法務の現場知見に基づき、実務文書を起草・校閲する際の明確な判断基準を提示します。 * 厳格な階層ルール(又は/若しくは)を死守すべき文書: 企業間の基本契約書・秘密保持契約書(NDA)、就業規則、定款、プライバシーポリシー、利用規約・約款、行政への提出規程案。法的拘束力を持ち、第三者との間で解釈の争いが生じるリスクがある文書は、例外なく伝統的な階層ルールに従うべきです。 * あえて平易な表記(または/箇条書き)に倒すべき文書: サービス利用ガイド、社内マニュアル、プレスリリース、顧客向けFAQ、自治体広報誌。読者の認知的負荷を減らし、直感的な伝わりやすさを重視すべき媒体では、「若しくは」の使用を避け、箇条書きに再構成することが推奨されます。【又は 若しくは 違い】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:契約書で「若しくは」を単独で(「又は」を使わずに)使っても法的効力に問題はありませんか?
A1:契約書全体の趣旨から当事者の合理的意思が推認されれば、契約自体が無効になる可能性は極めて低いです。しかし、法令用語の正統なルールに反しているため、条文の修飾関係について相手方と解釈の争いが生じた際、起草者側に不利に解釈されるリスクが残ります。単一の選択肢であれば、必ず「又は」を使用してください。
Q2:文化庁が「公用文作成の考え方」を出したことで、「若しくは」は使わなくなっていくのですか?
A2:国民向けの広報文や解説文では使用頻度が減り、平仮名の「または」への統一や箇条書きへの移行が進んでいます。しかし、法令、条例、公的規則、契約書などの「厳密な規範性が求められる文書」においては、誤読を避けるための階層区分として、今後も「又は」と「若しくは」の使い分けルールが維持されます。
Q3:「及び」と「並びに」、「又は」と「若しくは」がひとつの文に混在する場合はどう整理すればよいですか?
A3:論理構造を分解し、まず「AND(及び・並びに)」のブロックと「OR(又は・若しくは)」のブロックに切り分けて考えます。AND条件の中では「及び」が小さな結びつき、「並びに」が大きな結びつきとなり、OR条件の中では「若しくは」が小さな選択、「又は」が大きな選択となります。混在して一読で理解できない文になった場合は、文章を2つに分割するか、記号を用いた箇条書きに改めるのが実務上最も安全な解決策です。 (出典: 又は 若しくは 違い(Yahoo!ニュース))
まとめ:条文の意図を正確に伝えるための実務指針
「又は」と「若しくは」の使い分けは、単なる言葉の好みの問題ではなく、文書内の論理構造を他者へ正確に伝達するための「言語的フレームワーク」です。 大きな選択に「又は」、小さな選択に「若しくは」という階層秩序を厳格に保つことで、文書の法的信頼性は格段に向上します。同時に、読者が一般ユーザーである広報文書では無理に難解な接続詞を使わず、平易な表現へ柔軟に切り替えるバランス感覚も求められます。 起草する文書が持つ「法的拘束力の重み」と「想定読者」を見極め、正しいルールに則った明瞭な文書作成を徹底することが、無用な法的トラブルを未然に防ぐ確実な防壁となります。